「このあたりは危ないですよ」
地元の学生らしき、やけに顔の良い男の子に忠告された。例の事件の翌日。また、イタリア南部の町をふらふらしていた時のことである。今日は、先に備えて良いゴミ漁り場でも探そうとしていたときだった。身なりと人種からすぐ、私を観光客と判断したのか、おせっかいな学生もいたものである。
「ええ、ありがとう」
私は簡単にお礼を言い、背を向けて歩き出した。昨日から既に二度、チンピラに絡まれていたが、スタンドで返り討ちにしている。彼らは人気の少ないところで遭遇するので、私のスタンドが使いやすい――いや、べつに人気のあるところで使ってもいいのだが。
「待ってください。……道に、迷ったんですか?大通りまで案内しますよ」
どうやら一直線に裏路地の奥へ行こうとしたのは失敗だったらしい。男の子は私が迷ったすえにここに来てしまったと勘違いしたようだ。断るのもどうかと思い、また、時間は腐るほどあるのだし、ご厚意に甘えて、大通りまで案内される。裏通りへは自分で戻ればいいだけのことだ。
「イタリアへは観光へ?」
「はい。食べ物がおいしいでしょう」
「しかし、治安が良いとは言えませんので……できれば一人歩きはしないようにしたほうがいいですよ」
私もたいがいという自覚はあるが、この男の子はけっこうなお人好しだ。数言会話を交わしつつ、きっちり大通りまで送り届けてもらって、そこで改めてお礼を言う。
ありがとうございます。これ、少ないですが。財布の中身の紙幣を、チップがわりにすべて渡した。
「いえ、僕は、可憐な女性がお困りだったので親切にしただけですから」
わお。イタリア人。
しかし、日本から持ち込んだ紙幣はできるなら早めに処分してしまいたかったので、無理やり渡して、背を向ける。日本のことは、もう忘れたい。だから、早めに世捨て人になるためにも、これは必要な行為だ。
「……分かりました。では、これで僕とお食事でもいかがです?」
腕を掴まれて、そう提案されてしまったのは、まったく、私の詰めの甘さと言えよう。そうだ。人の厚意は断れない。
結局、その男の子ー―ジョルノ・ジョバーナというらしい――彼とレストランに入り、楽しく食事をしてから、私はようやく解放された。裏通りに戻り、やっと落ち着いていたら、ポケットに何かが入っている。私が手渡したはずの紙幣そのままと、彼の連絡先らしき、メモだった。イタリア男は気障である。嫌いではなかったが、私はすこし、憂鬱になった。