「どうしてこうなるんですか」
私のその言葉は、かなり子供っぽい、拗ねるような物言いだったことだろう。
私の申し出は許諾された。のだが、さすがは家族のように強く結びついた暗殺チームである。ひとりでは行かせられない、と口々に言われ、誰が組むかで口論になり――結局、リーダーであるリゾットさんの鶴の一声、全員で行けばいい、という案が受け入れられてしまい、現在に至る。
……これじゃ暗殺じゃない。
ただの総力戦で、戦争だ。
「そんな顔をするな。死にに行くわけではない」
護衛チームを待ち伏せ中。リゾットさんが、むくれる私を諭すように言う。
現在地は、ナポリ近郊・ポンペイ遺跡。
かつて火山活動により滅んだ石造りの街並みを復元した場所で、世界遺産としても登録されている。その遺跡――の、左右反転、鏡の世界に私たちは揃って待機していた。遺跡に鏡を設置し、イルーゾォさんのスタンドで許可を受けたのだ。
さて……。
私たちの目的、トリッシュという女性は、パッショーネ幹部・ポルポの保護下に既に置かれていたらしい。ただし、その当のポルポが突如自殺を遂げたため、紆余曲折あって、護衛チームがトリッシュさんの護送をしているそうだ。
そして、その護衛チームが、どうもポンペイ遺跡に向かっているらしい。――ポンペイ遺跡で待ち合わせなんてわけはなさそうなので、おそらく何か、ボスから受け渡されるのだろう。……つまり、ボスに会う手段に繋がるものの可能性が高いわけだ。それを手に入れることもまた、重要な目的のひとつだった。
「……来たぜ」
プロシュートさんが告げた瞬間、空気が張り詰める。
三人。鏡越しに見える現実世界に、歩いている人物が見えた――護衛チームの顔と名前などは、新入りの一名を除いて調査済みのため、それが目的の護衛チームなのだとすぐに分かる。ひとりは、アバッキオ。もうひとりはフーゴで……それと。
あと一人は、……情報になかった人物。
情報にはなかった。確かになかったが――私は彼のことを「知っていた」。
ジョルノ・ジョバーナ。
私に、親切にしてくれた学生さんだ。
「『マン・イン・ザ・ミラー』!三人を『許可』する!スタンドと武器は『許可』しないッ!」
イルーゾォさんのその声で、私は正気に戻った。ジョルノくんが、敵……。まったく、予想だにしていない事態だった。まさか敵が知り合いだなんて……しかも、彼はとても「いい人」なのだ。彼を殺してしまうことになるのか。彼の大事な仲間も。
…………。
「――い、『いきもの失格』ッ!」
彼らが鏡の世界に入ってきてすぐ、咄嗟に、私は三人へ向かって――スタンドを発動し、スライムをけしかけてしまった。
考えなしに。
彼らを、庇うために。
三人が、スライムに跳ね飛ばされる。その場所は、リゾットさんのスタンド『メタリカ』の射程圏内だった。殺されるのは明白だった――彼のスタンドは、一度受けただけでも瀕死になる。そして、そのまま死にうるほど強い。
リゾットさんや、ほかのメンバーが驚いた顔をする。私が彼らを庇ったのが、すぐに分かったのだろう。しかし、私にはできなかった。――直接殺すのも、見殺しにするのも。
反射的に、ジョルノくんのほうへと駆け寄る。
「ジョルノくん!」
「……え、あ……お久しぶりです。こんなときに会えるなんて。やはり僕たちは運命の糸で結ばれているんですね」
ジョルノくんは平然と、この状況下で、そんなことを言ってのけた。