人間が壊れると、どうなるのか。
私はその答えを知っている。目の前で実際に見たことも、伝聞で後から知ったこともある。それらの原因はもちろん私で、私が居なければ、彼らは幸せに過ごせていたのかもしれない。
人間は壊れると、他人か、自分を殺す。
あるいは、そのどちらも。
私は私自身の呪われているともいえる生まれついた不可思議な力で、そういった場面に遭遇する確率が、通常よりもずっと多かった。人は一度壊してしまうと、絶対に戻らない。物じゃないのだから、修理も買い替えもできない。なのに、私はそれを、自分の本意でなく起こしてしまう。
私自身、一緒に壊れていたなら、ましだったものを。
私は多大なる痛みを伴いながら、狂うことも壊れることもできず、過ごしてゆくしかない。
壊れなければ、自分なんて殺せないから。
壊れていない私は、生きてゆく。
――ただ、自殺と、自己犠牲による死は違う。
もし、そうやって誰かのために死ねるなら、もっというならなにかを「守って」死ねるなら――こんな私でもそれができたら、なんて、素晴らしいだろう。
私はそれを、ずっと望んでいたのかもしれない。
そうやって終わりになることを、望んでいたのかもしれない。
トリッシュという女性の所在が、判明した。
護衛チームという、同じパッショーネ内の別チームに護衛されて、ボスの元まで送り届けられている途中らしい。
この情報を得たのはホルマジオさんだった。得意げにしてひとりで現場に向かおうとする彼を引き留め、私は名乗り出る。

「私が、行きます」

死にたいわけではない。
生きていたい。
ただ、生きていないほうがいい命であることは、どうにも、理解しているもので。