現時点で、少なくともふたり、壊れかけてきている。
私はあれから自室にこもって、ベッドのシーツを頭からかぶり、困り果てていた。イルーゾォさんと、ギアッチョさん。気を付けていたつもりだったのに。また、また昔と同じことをしてしまった……。
いや。まだ、大丈夫だ。壊れかけているものの。壊れきってはいない。これから、気をつければいいだけの話だ。とにかく、イルーゾォさんとギアッチョさんへの接触は控えよう。……それができるなら苦労しない。私のいちばん苦手な行いは、人の厚意と好意を無下にすることだ……。
まあ、それについては、できるだけ二人きりにならなければいい……。幸い、今はトリッシュさんという女性を捜索し、ボスへ反旗を翻すのに慌ただしいのだ。私に構ってくる暇は、そんなにないはず……。大丈夫……。大丈夫……。
では、それが終わったら?
…………。

「……どうした?なにか、あったのか?」

ノックの音に気が付かなかった。頭上から、リゾットさんの声がする。私はシーツから頭を出して、時計を確認した。もう夕刻で、リゾットさんはおそらく夕食の用意ができて呼びに来てくれたのだろう。私はできるだけ平気な顔を心がけて、ベッドから身を起こし、ちょっと悪い夢を見ていました、と言った。

「嘘だ。つらいことがあったんだろう」

リゾットさんは屈んで私に目線を合わせ、私の瞳を覗き込む。表情に乏しくとも、私を心配してくれているのが分かった。その事実に、すこし、気が楽になる。

「……いつも、ひとりで抱えてばかりだな、お前は。頑張りすぎだ。もっと、俺に頼ってくれていい」

リゾットさんは私を抱き締めると、優しく、あやすみたいに背中を叩いた。本当に、人間が出来た人だ。……私はすっかり脱力して、リゾットさんの胸板に体重を預ける。忙しくて疲れているだろうに、リゾットさんは私が落ち着くまで、そうして抱き締めてくれていた。彼の寡黙さが、こういうとき、ありがたい。
しばらくして、私はリゾットさんから離れた。一瞬、リゾットさんは口元を何か言いたげにする。が、結局、それが言葉になることはなかった。

「ありがとうございました。もう、大丈夫です」
「そうか」

リゾットさんは表情を変えないまま、私を引き寄せて再度、つよく抱擁をする。すこしばかり驚いて、どうしましたか、と訊ねると、

「しばらく、俺を抱き締めていてくれ」

と、告げられた。

「ええ、もちろんです」

リゾットさんにも、何か悩み事があるのだろうか。おそらく、懸念事項のボスの件か。私はリゾットさんの広い背中に手を回して、彼がしてくれたように、優しく、抱き締めた。