近頃、たいへん慌ただしい。ボスが探しているという女性を、普段の仕事の傍ら、探しているからだろう。私はその件について下っ端であるせいか知らされていないため、よくは知らないが、ポルポとかいう幹部に女性を保護される前に探し出さなければ、彼らの欲しい情報の入手が非常に難しくなる――のだそうだ。
おそらく、それが、ボスの居場所やらに繋がる情報なのだろう。まあ、私はどのみち、暗殺以外の仕事を任されていないので、暇だ。何か手伝おうにも、私は情報網や裏の繋がりを持っているわけでもなければ、彼らが普段している仕事――縄張り内の店の取り仕切りとか――なんて、もっと勝手が分からない。
(私はでしゃばらないほうがいいのかもな)
できることをやればいいのだ。私にできるのは、いざというとき戦闘で多少手伝える程度だが……。
ある日の昼間、水でも飲もうとキッチンへ向かっていたとき、背後から声を掛けられた。ギアッチョさんだ。彼はあの夜以来、メローネさん曰く私の前でのみたいへん大人しくなってくれたらしいのだが、事実私は逆上している彼を見ていないのだが、それでも、彼に対し苦手意識があるのは変わりなかった。
「よ、よお。もう、昼時だろ。よかったら、一緒に昼飯でも……」
すっかりしおらしくなったギアッチョさんは、ためらいがちに昼食の誘いをしてくる。こういうとき、私は断れない。運が悪い……。いや、これが今日初めてのことだったならべつに、職場の付き合いとして許容もできるものだけれど、実をいうと、ここのところ毎日、忙しいはずなのに、なぜか昼時か夕時にはふらりと現れて、私を食事に誘ってくるのだ。
「あの」
「……お、おう。なんだ?」
「どうしてそんなに、食事に誘ってくるんですか」
するとギアッチョさんは赤くなり、だって俺たち、付き合ってるだろうがよ、と小さな声で告げられる。
「えっ……」
「ああ。そうか。あんまり急にべったりすると、チームの奴らにばれちまうよなぁ。お前も、それは恥ずかしいか?悪かった。ちょっとは控えるようにするぜ」
ギアッチョさんはそう言って、リビングにある鏡のほうを一瞥してから、今回はやめにしてくれたらしく、その場を立ち去った。その背中を消えるまで見送って、彼がアジトから出ていったあとも、しばし私は呆然としてしまう。
「大丈夫か?」
また、背後から声が掛けられた。穏やかな、心配するような声。イルーゾォさんだ。振り返ると、おそらく鏡の中にずっと居たのだろう、ちょうど、イルーゾォさんが鏡から出てくるところだった。
「災難だったな。ギアッチョの奴は思い込みが激しいところがある。大目に見てやってくれ」
「あはは……」
どう反応していいものか分からず、苦笑いしか返せない。ただ、なるほど、そういうものか、とすこしだけ安心する。ギアッチョさんは思い込みが激しかったのか。それなら、しかたない。
まったく、と困ったようにイルーゾォさんも笑う。ふたりで、しばらく笑った。あはははは。あはははは。
「お前の恋人は、俺なのにな」
ああああああああああ。