あれ以来、プロシュートさんは普段通りの調子を取り戻した。ただ、数日おきにアジトに顔を出しては、今夜は泊まっていくといい、と私を誘いに来る。この誘いがあるときは間違いなく、彼は私に正常ではない恋人ごっこの慰めを求める。ベッドの上で彼は女になり、冗談みたいなアダルトグッズで私に犯されては、愛していると何度も確認するように告げるのだ。私にも心があるもので、あまりこういったことが続くのは、精神衛生上よろしくない。

「――、悩んでいるのか?」

昼間。部屋で眠気もないのにベッドで横たわっていると、ためらいがちにノックをしたあと、リゾットさんが顔をのぞかせた。さすがチームをまとめるリーダーなだけあって、部下の異変にはいち早く気付くらしい。
が、この悩みを打ち明けるとなると、プロシュートさんが強姦された件についても話さねばならないだろう。本人以外から口外するのもどうかと思い、私は口をつぐむ。リゾットさんは、それを見て、やや寂しそうな顔をした。

「俺には言えないか。……いや。言いたくないなら、いいんだ」

リゾットさんはベッドに腰を下ろし、そのまま、ボーダー柄のゆるいズボンを脱ぎ始める。下着を下ろすと、彼の股間部分――陰茎をがっちりと包囲した、金属の貞操帯が姿を見せた。聞きに来たついでに、鍵を取りにきたのだろう。私はサイドテーブルの引き出しから、預かっていた鍵を探しながら、金属なのだから鍵がなくとも彼はスタンドで開けられるのではないかしら、と今更なことを考えていた。
彼が貞操帯をつけているのを知ったのは、彼自身に告げられたためである。よく分からないが、彼はこうやって、射精管理をしなければ手淫で達せないらしい。そしてその射精管理を確実にするために、私に鍵を持っていてほしいと依頼された。仲間のよしみで、私は彼の鍵の隠し場所になっている。

「うっ……ひどいにおいですね」

取り出した鍵を彼の貞操帯に合わせようとして、思わず眉をしかめた。既に勃起し、貞操帯に押さえつけられつつも先走りを流しているリゾットさんのそこは、鼻につくような性臭を発している。

「ああ。三日も洗っていないからな」

隙間からいくらでも洗えそうなものなのに……。とは考えたが、口にはしない。人の性癖はそれぞれだ。事実リゾットさんは、このにおいにひどく興奮しているようで、頬を赤く上気させている。
ぱちり、と音を立て、貞操帯の鍵が回った。彼の貞操帯を取り外し、サイドテーブルの上に置く。彼の陰茎はいつ見ても気圧された。なにせ、見ているこちらが痛くなるほどに、大量の金属ピアスを陰茎に打ち込んでいるのだ。どうやってセックスをするのだろう、と疑問が浮かんだが、貞操帯を日常的につけているあたり、セックスはしないのかもしれない。

「見ていてくれ」

ゆるく足を開いて、リゾットさんは自分の陰茎を扱き始める。大量に溜まった恥垢が彼の手に付着し、先走りと混ざって蒸れるので、余計ににおいはきつくなった。はあはあと熱い息を吐き出している。眉は、いつもの無表情よりも、悩ましげに寄せられている。

「あ、あ、――く、ううっ」

すぐに、リゾットさんは射精した。先端から、どろどろとした濃い精液が大量に流れ出ている。精液はベッドのシーツに落ちた。あとで洗濯が必要である。

「う、ああ……あ、あッ」

射精後も手を休めることなく、リゾットさんは手淫を続ける。しばらくすると、また、陰茎は打ち震えて大量の精液を垂れ流した。劣情に苛まれているリゾットさんというのは、かたい表情が不格好に歪んでいて、何だかおかしい。男性が三日、自慰を我慢するというのはどの程度の苦悶なのだろうか。リゾットさんはオナニーを覚えた猿のように、手を止めない。何度も射精し、大量の無駄な子種を死滅させる。それが、とんでもなく気持ち良さそうだ。
やがて精液が出なくなり、勃起もできなくなったあたりで、リゾットさんは肩で息をし、私のほうへ倒れこんだ。鼻は慣れてきたが、近づかれるのは正直勘弁してもらいたい。そうやって抱き締められると、服に汚れがつく。

「ン……見ていて、くれたか?お前を想って、たくさん出たぞ」

はあ、それは良かったですね。という素っ気ない返答をしそうになって、慌てて私は、すぐお風呂に入りましょう、と、現実的な提案で取り繕うのだった。