メローネのやつがイカれてるのは重々知っていた。「そろそろ、子供ほしいな。」って笑う姿とか、まあ、とても官能的なんだけど。
「俺たちのベイビィはきっとかわいい。ディ・モールトかわいいに違いないぜ、」
そうやってうっとりして、撫でているのは自分の筋肉質な腹だ。男は妊娠できない事実を忘れているのか。彼は自らの胎内に生命が宿るのを疑わないようすである。まったくそれが哀れに思えて、私は無駄と感じつつも指摘してやった。
「男は、妊娠できないよ」
意外にもメローネは、その言葉でハッとして、ああ確かにね、と納得してみせた。メローネにも正気が残っていたか、と安心したものの、しばらくのち、メローネはいつもの調子で、私の前に現れた。
「ペニスと玉を取ってきた、これで妊娠できる!」
狂人の思考回路は分からない。メローネは私の前で裸になって、つるりとしてしまった股間を見せてきた。生殖器が無いくせに胸は男性的な胸板のままだから、アンバランスで不気味な人形みたいだ。メローネ、きみは正常な手順でも子供を残す可能性をゼロにしてしまったのに気がついたほうがいい。
「子宮が無いと、妊娠はできないよ」
「それなら、心配いらないさ」
メローネは私の冷静な突っ込みにもめげずに、名案を実行したとばかりのしたり顔で尻の穴を見せてきた。薄く色素の沈着した彼の肛門は、本来なら円形ですぼまっているはずなのに、まっすぐ、なんというか、筋みたいになっている。外見は、女性器に似ている。
「を想って毎晩ひとりで開発したんだ。もう、どんな大きなものでも入るし、締まりもいい。凄いだろう、完璧に女性器だ」
なるほど、完璧な馬鹿だと分かった。いくら尻を性感帯にして女性器に似せてみたところで、子宮が発生するわけでもなければ、子供が授かれるわけでもない。けれど、そのあたりをまた突っ込んでも、彼は、意味不明な論理を組み立ててひとり納得してしまうだけだ。妄想症の人間の特徴である。指摘するだけ無駄だった。メローネと過ごす時間が有意義だったためしは一度として無いが。
「愛してる、愛してる!子作りしよう」
「鬱陶しい」
メローネは盛りのついた犬みたいに私に近寄ってくる。去勢をしても性欲というか、変態性欲はそのままなのかしら。そうだとしたら人間は罪深い。邪険にしても、めげずにメローネは私にキスの雨を降らす。殴ったら喜んだ。殴られた意味、分かってるのかお前。愛情表現だと勘違いするなよ。言っても無駄だろうけど、どうせ変な理屈をこねて無かったことにされるんだろうけど、一応言ってやる。
メローネ、前提として、私たちは恋仲ではない。