申し上げます、申し上げます。懺悔させていただきます。神父様。どうぞ、神の御名において私の罪をお許しください。私はとんでもない過ちを犯しました。
私はぶどう農家になりたかったのです。なぜなら、父と母はぶどう畑を耕して糧を得ておりましたから。私は人間が苦手でした。人間関係、というものが、どうもだめでした。だから、両親と同じく、土を相手に仕事をしたかったのです。昔から、先祖代々、そういう家系だったのでしょう。うちのぶどう畑は、それはもう、歴史が長く続いておりましたので。
しかしある日、私はそのぶどう畑を離れなければならなくなりました。
残酷な話です。よくわかりませんが、父と母は稼ぎすぎた、のだそうです。我が家は先ほども申しました通りに人間関係が苦手なものばかりでしたから、そういった、なにか暗黙の了解みたいなものを、知らずに破ってしまったのでしょう。でも、だからって、殺してしまうなんて、残酷すぎやしませんか。あんまりだ。こんなことが許されるのか。……ええ、許されたんです。少なくとも、社会的には。社会は裁きを下しませんでした。両親が殺されたのに、誰も、裁かれやしなかったんです。
私はそれから、ぶどう農家の夢を諦めました。この憎しみを捨てることが、ついぞできなかったからです。ええ、今でも。私は、父母を殺した下手人を探しました。特徴的な殺し方でしたので、裏の世界に詳しくなってくると、まあ、すぐに分かりましたとも。リゾット・ネエロ!忌々しい!……私は悪魔に魂を売り渡しました。どんなことでもやって、裏の世界で信用と地位を得たのちに、その男に近づいたんです。
男の大事なものを、すべて奪ってやる心づもりでした。ですが、男は……。男は、何も持ってやしなかったのです。金も、女も、家族も。本当に……がらんどうみたいな男でした。奪うものが、何ひとつ無かった。私はこの憎しみをどうすればよいのですか。答えなど決まっています。私が、男に与えるしかありませんでした。無いのなら、そうするしかないのです。
私は男に優しくし、常に気遣い、寄り添いました。はじめは男も不思議そうにしていたものですが、しだいに、感情というものが宿ってきたようで、自分から私の元へやってきたり、名前を呼んだり、触れ合って嬉しそうにしたりと、変化が見え始めました。ええ。恋人、といえるくらいに、信頼は得ていたと思います。そして、信頼はやがて執着に変わり、執心に変わります。男は私から離れることをひどく嫌がるようになり、私が居ない夜は夜尿をしてしまうほどでした。私が怒鳴ったり、嫌いだと言えば、泣きながら謝って、捨てないでくれと叫び縋りつくのです。男の稼ぎはすべて私が取り上げました。それでも微々たるものなので、こんな稼ぎの悪い男があるか、甲斐性なし、盛り場に行って男に尻でも貸して来い、と家から追い出して、男娼の真似事で一定額を稼ぐまで、部屋に入れてやらないこともありました。彼の尊厳を踏みにじるためならばなんでもしました。一度、彼が男に買われて営むところを私は見たことがあるのですが、彼は、、、と私の名前を呟きながら犯されるのです。私に犯された気になって、精神の防衛をしていたのでしょう。もちろん、それから、絶対に行為中に私の名を呼ぶな、客の機嫌を損ねたらどうするのだ、と叱りました。以来、彼はその命令を律儀に守っていたらしく、出稼ぎに行くたび、げっそりとして、目の隈を深くしていました。あとは、違法なAVに出演させてやったり、常日頃から暴力をふるってやったりと、いろいろとしましたが、彼が反抗することはありませんでした。私はずっと、お前のせいだよ、と、男に洗脳するように言い聞かせていたからです。男はそれを真に受けて、本当に自分のせいなのだと考えているようでした。
ある晩、私はとても心地の良い夢を見ました。父と母の夢です。私はひとりっ子でしたので、それはもう、かわいがられて育ちました。父が笑いながら、安楽椅子に座って、寝ている私を眺めています。母も頬を綻ばせて、なんてかわいらしい、と私の頭を撫でるのです。それは優しく――懐かしい暖かさでした。なんて幸せな夢なんだろう、と、うっとりして私は瞼を開いたのです。しかし、そこで見えた世界は現実で、……いえ、ただの現実ならまだ良かったものを――あの、男が。疲れ切って死にそうな顔をした男が、それはそれは幸せそうに、寝ている私の頭を撫でていたのです!……私は、憎き仇の手のひらの暖かみを、存在を、あろうことか最愛の父母と間違えたのです!……なんてこと、なんてこと……。私はもう、ショックでショックで、衝動的に、男を押し倒して首を絞めました。神に誓って申し上げます。殺す気はありませんでした。確かに殺してやりたいほど憎んでいましたが、もっと苦しめて、その果てに、私が死んでやるつもりだったのです。だから彼に近づき、私に依存させました――なのに、ああ!私は彼を、そこで殺してしまいました!
ひどいお話だとお思いですか。いえ、もっとひどいのです。私は、この男を仇と信じて疑いませんでした。ええ。特徴的な殺し方でしたから……。老衰で殺すなんて……。それをできるのは、暗殺チームのメンバーだと聞いたのです。しかし、私は暗殺チーム全員が、スタンド使いだとは知らなかったのです!……暗殺チームのリーダーがスタンド使いだと知ったとき、彼こそが……仇であると、すっかり勘違いしてしまったのです。だって、私はスタンドなんて持っていないもので……彼を殺したのち、よくよく彼の身辺を調べてみて、やっと、分かったのです。人違いでした。とんでもない話。私は、おそろしい罪を犯しました。
どうぞ、お許しください。神の御名において、この罪をお許しください。……そうですか、許してくださいますか。ありがとうございます。気が楽になりました。ああ、本当に。
今度こそ、間違えずに仇を打ちます。そして、晴れやかな気持ちで、新しく田舎に土地を買って、そこを耕し、ぶどうを育て、土とともに生きます。人間と関わるのは、どうあれ、私に向いていないようですから。……神父さま。長々と、お付き合いのほど、ありがとうございました。