私はパッショーネの麻薬チームに所属している。売ったり、運んだりするのはしたっぱの仕事で、私たちチームがやるのは麻薬の輸入や売人への受け渡し、売買の取り仕切り。組織内では最も忌み嫌われている部署だ。薬中や半薬中な売人の相手をしてやってるってのに、まあひどい言われようで。でも、給料はとても良いから、その点、仕事として、私も甘んじて受けておくわ。

「混ぜ物をして売ったクズ売人を殺して」

その男に会ったのは、そんなよくあるトラブルが起きたときだった。人殺しは私たちの仕事ではないもので、パッショーネの別部署、暗殺チームの人間に依頼をもっていったのだ。だって、人を殺すとか、なんてまあ、おそろしい。うちのチームでだって、誰もやりたがらないので、大抵、こういったことが起きたら、暗殺チームに依頼がいく。お金はたくさん、持っているしね。
そのとき応対した男は、いつも私が依頼をする、大柄の真っ黒頭巾の男ではなかった。小柄というほどではないが、頬がこけていて、貧弱そうで、陰鬱な表情をした黒髪の男だった。顔立ちは綺麗なのに、いやに不健康なかんじがしたのは、ああ、こいつ、睡眠薬か頭痛薬なんかを常用している、とすぐにピンときた。こういうやつが麻薬にハマりやすいんだ。

「殺し方はなるべく凄惨に。一発で、粛清って分かるようにね」
「分かった」

ため息混じりに了解したこの男は、まるで世界中の不幸を背負ったみたいな面構えだった。それが、なんだか見ていて苛々した。むしょうに、殴ってやりたくなるくらい。

「報酬に不満が?」
「……いや、じゅうぶんすぎる。少なくとも、パッショーネ直々の依頼よりは」
「ああそう。それなら、もっと嬉しそうな表情をしたらどう?」

いつもの黒頭巾のほうが、無表情で無愛想でもまだマシだった。不愉快ではないから。目の前の男は気圧された表情になって、こんな女相手におろおろとする。ああ、むかつくなあ。煮え切らない男って、嫌い。

「……普段の不遇がよけいに分かって、自分が惨めになっただけだ」
「ネガティブね。男らしくない」
「そりゃあ、お前みたいに恵まれていたら、ポジティブにもなれるだろうさ」

こういった人間はどんなに恵まれた環境に居たって、ずっと不幸だと文句を言っている。相手にするだけ無駄かと考えたけれど、私のなかの意地の悪い部分が、こいつを攻撃したいと囁いてきた。分かるでしょう?気に入らないものを、とことん叩き潰したい、みたいな、黒くてどろどろの感覚。私、そういった気持ちは抑えないことにしているの。

「かわいそうだから、奢ってあげる。お酒、飲みに行きましょう」

そんなふうにして、無理やり彼を連れだして、しこたまお酒を飲ませ、前後不覚にして自宅まで連れ込んだ。何度か道中吐いていたせいか、ひどくぐったりしていた。ベッドの上で半ば意識を失っている男の服を脱がせて、骨ばった薄い尻を撫でる。肌はやや乾燥している。
ローションを使って、彼の肛門に、ゆっくり人差し指を挿れた。情けない声を上げて、男の全身が強張る。

「あ、あ、な、なにを」
「痛いかな?よしよし、それならお薬をきめようねえ」

赤子にやるみたいに宥めながら、私は抵抗できない男の首筋に注射器を刺した。容赦なく、うちの組織で扱っているもので、いちばん強くてたちの悪い薬を。
みるみるうちに、男は思考がよけいにままならなくなったようであった。前立腺を擦ってやると、悲鳴を上げる。なにこれ、やだ、こわい、そんな生娘みたいな言葉を吐きながら、陰茎を勃起させて先走りを垂らしている。気持ちよすぎて、わけがわからないみたいだ。泣きながらシーツを掴む男を追い立てるように指を増やす。男は女みたいに喘ぐ。

「じゃあ、いれるよー」

尻を上げさせて、ペニスバンドで男の肛門を貫いた。私たちは、男と女として間違った繋がり方をした。それを疑問に思う余裕すらないのか、男は馬鹿みたいに気持ちいい気持ちいいと喘ぐ。明日の朝、正気に戻って死にたくなるがいいや。私は携帯のカメラで男の痴態を撮影しながら、容赦なく男を犯した。

「あっあっ、名前っ!名前教えて……っ」
、だよ」
ッ!、好きっ好きぃっ!ああッ」

それから男は私の名前をひたすら連呼して果てた。果てたあとも、気を失うまで尻を犯してやった。犯された男の肛門が、ぽっかりと穴を広げている。シーツは精液まみれで異臭を放っている。このまま男をシーツでくるんでゴミ箱に捨ててしまえたら楽なのに。私はどうにか気を失った男を引きずって、服と一緒に自宅の外に放置した。
寒い日ではなかったから、死ななかったと思う。
だって、結局私の依頼した仕事は、きちんと遂行されていたから。トラブルも収まったので、私はまた、普段通りの業務に戻った。あの男に会う機会があるとしたら、またトラブルが起きたときだろうが、あんな目に遭っておいて会いたがるとは思えない。一生女に犯された惨めで苦い思い出を引きずっていくといい。あはは。
と上機嫌になっていたら、あれからそう経っていない日の夜に、部屋に訪問された。ドアスコープを見てすぐに分かった。あっ、痩せている。この痩せ方、目の落ちくぼみ方、ぎらぎらした瞳は、薬物中毒者の顔。暗殺者なら一度の薬物くらい断てると予想したが、彼は本当に意志が弱かったらしい。
なんだろう、報復かな。不意打ちされても私は負けないけど。

「開けてくれ、。居るんだろう」
「居ません」
「なあ、どうして会いに来てくれないんだ、寂しい……」
「めんどくさい女みたいなことを言うのね」
、俺はお前の女だ。そうだろう?また愛してくれ、俺を受け入れてくれ」

ドアを開けた。私よりも背が高くて、けれどもなんだか弱弱しい男は、心底幸せそうな顔で私を見た。

「そういう顔もできるのね」

そこで、私はやっと、男の名前を訊ねた。彼はいずれ破滅するだろうが、前よりもずっと生きているようだ、と思った。