うまいこと育てられた覚えがないので、私はコミュニケーション障害だ。お人形さんみたいね、という言葉は間違っていない。私は、この表情筋をどう動かしていいのか分からない。もちろん、それなりには生きてきたのだから、表面上の笑顔とか、態度は一通り繕える。だが、いざ深い仲に踏み込みそうになってしまうと、私は途端にボロが出るのだ。
そんな私にも、恋人が居る。彼から告白されて付き合い始めた。もう付き合って、ええと、何年かは忘れてしまったが。彼がもう何年だから、としきりに言うので、おそらく、彼は結婚をちらつかせている時期なのだと思う。それぐらいには、長い付き合いだった。
「、お前はうるさくなくていいな」
そう言って私に笑いかける恋人はなぜか寂しげだ。その言葉の裏には、「もっと我儘を言ってほしい」という意思も透けて見える。恋人の名前は、プロシュートという。本名では、ないと思う。それがラストネームなのかファーストネームなのかも分からない。いや、私が「本名を教えて」とわがままを言うか、「結婚をしたいな」という意思を見せればきっと、彼はなんでもないように本名を告げるだろう。彼は、私を愛してくれている。私は他人の心の機微に敏感だった。それなのに、私は私の心に対してあらゆる気持ちが鈍磨である。
彼は美しいブロンドの髪と、整った顔と、ほどよく筋肉のついた長身で、女性にもてる。ギャングであり、お金はそれなりに稼いでいる。そして、なにより、私を愛している。だから、私も、彼が好きなのだろう。おそらく。いや、分からない。客観的にみて、非常に恋人としてよい物件だから、「好きにならないわけがない」のだ。好きであるべきなのだ。だから、きっと私も彼を好きなのだろう、と考えた。だから、告白を受けた。けれども彼は、私と居て、時折、不安げな顔をする。
「、愛してる」
「ええ、私も」
プロシュートは優しい男だ。私が愛情表現のしかたを知らないのを分かっていて、それでも、黙っている。ただ、付き合い始めのころに一度だけ、「たまには、お前から言ってくれよ」と、愛の言葉を求められたことがあった。私は言われるままに、「愛してるわ、プロシュート」と、告げた。残念ながら、プロシュートはそれに満足してはくれなかったようだ、というのが、表情を見て明白だった。それ以来、彼が私に愛情表現を求めることはない。私は、なんだか彼を深く傷つけてしまった気分になった。
欠落している。
それを落としてしまったのか、はたして初めから無かったのか、もう分からない。ひとつ言えるのは、私が彼の訃報を知ったとき、私はやっぱり私がどう思っているのか、まったく分からなかったし、涙もどうやら出なかった。それだけである。