あれよあれよという間に、私は彼の所属する組織に迎え入れられてしまった。正式なかたちではないが、一応チームの戦力のひとつとして。

(困った。非常に困った)

私がスタンド使いであることは、現在入院中の助けた男性ら――ソルベさんとジェラートさんから伝わってしまっている。そして、このチーム――暗殺チームというのだが、彼らも全員スタンド使いで、スタンドを使えることがいかに有用かを、理解してしまっている。
彼らは私という人材を離してはくれないだろう。顔が割れてしまっている以上、イタリアで過ごすなら、もう浮浪者として生きてゆく選択肢は無くなってしまった。――衣食住が満たされているのは非常にありがたいが、問題は、この暗殺チームのメンバーが、とても仲間思いで、家族のような繋がりをもっていることだった。
いっそ、完全に極悪非道な人間であれば、どんなによかったか。

(いや、いいんだ。彼らは人殺しだ。金のために殺しているのだから、きっと悪い奴なのだ)

そう自分を納得させておく。例え彼らが、「私のせいでめちゃくちゃになってしまったとしても」、それは、今までやってきたことのツケ、自業自得であると、自分に言い訳できるように。

「――。今、時間いいか?」

私は暗殺チームのアジトにある一室を部屋として与えられている。その部屋のベッドの上で横になっていると、ノックをする音と、声が聞こえた。私をここへ連れてきた張本人であり、何かと世話を焼いてくれている、プロシュートさんだ。

「はい。どうされましたか」

返事をすると、ドアが開く。プロシュートさんは相変わらず、高そうなブランドものの黒いスーツを誂えて、姿勢よくそこに立っていた。

「仕事が入った。敵対組織の殲滅に、イルーゾォと俺、お前の三人で向かう。ついて来てくれ」
「分かりました」

一応これが初仕事だった。生活に困らないよう計らってもらっているのだから、突然の仕事であろうと不満はない。それに、暗殺チームの面々には、「重要な一部」を除いて私のスタンドの能力について明かしてあるため私のスタンドが必要で声をかけてくれたのだろう。これから人殺しに向かうことに、異論はなかった。
途中イルーゾォさんと合流し、挨拶を交わしたのち、プロシュートさんの運転する車に乗り込む。イルーゾォさんは大きな鏡を持ち込まなければならないので大変そうだ。彼が車の後ろに鏡を積んでいる間、ふいに、プロシュートさんは訊ねてきた。

「……お前。人を殺した経験は?」
「ありません」
「怖いか。逃げたいってんなら、追わねぇが」

その言葉に、私は少なからず驚いた。まさか、多少なりとも内情を知られているのを理解しているギャングからそんな科白が発されるとは想像もつかなかったので。
悲しくなる。プロシュートさんは、優しすぎるのだ。残酷にもなれるが、それでもその優しさがあるというのは致命的だ。彼は早死にするタイプだろうと感じた。

「いいえ。たった殺すだけでしょう。壊すより、ずっと優しいと思いますよ」

プロシュートさんは何か言おうとしたが、ちょうどイルーゾォさんが車に乗り込んできたので、言葉を飲み込んだ。
そうだ。殺すなんて――「壊す」より、どんなに優しく、簡単なことか。
そして、私はこのとき、すこしだけ嘘を吐いた。人を殺したことはない、と答えたが、それは「直接手を下したか」という話においてであって、結果的に死なせたことは……。
…………。
私は座席に寄りかかり、瞼を閉じて寝たふりをした。
彼らに対してではない。自分に対して、だった。