レストランでの食事を終えた同日、夜。
私が目立つことについて、何が悪いといえば、やはりこの観光客特有のこぎれいな服装にあるのではないか。
そう思い立ち、私は適当なゴミ捨て場から服を拝借してみることにした。が、意外に、服というのは捨てられていない。裏通りのゴミ捨て場、大量のゴミを掻き分けながら、私は嘆息する。
「いいモンは見つかったか、お嬢さん」
一瞬、どきりとした。こういったゴミ捨て場にも、浮浪者の縄張りがある。喧嘩をふっかけられたら、またスタンドで攻撃しなければならない。無意味に戦闘するのも気が引ける。
だが、振り返ってみると、意外にもそこに居たのは――浮浪者とはかけ離れたブランドもののスーツ、手入れされた金髪をひっつめ髪にした、整った顔立ちの男性だった。その堅気でない雰囲気と、青い目には見覚えがある。つい昨日――ふたりの男性を助けたあとにすれ違った男性だ。やけに美しかったので、覚えていた。
どう答えていいものか分からず、私は軽く会釈して、逃げるようにその場を後にしようとする。だが、男性は私に用があるらしく、肩を掴んで引き留めた。
「お嬢さん、観光客だろ。こんなとこで何してんだ」
「…………」
「ああ、いや……言いたくねぇならいいんだが」
自分でも威圧的にしてしまったことに気が付いたのか男性は慌てて声のトーンを上げる。
「悪ィな。細かいことが気になるたちでよ。……用件はそれじゃねぇんだ」
用件?……男性は、どうやら私個人に用事があるようだった。すこし、いやな予感がする。こういった予感は当たるので、できればすぐにでも逃げたかったが、肩を掴まれているのでそれもできない。
ややあって、男性は告げた。
「俺のチームのやつがよォ……お嬢さんをやたら持ち上げんだ。ヤバイとこを助けられたから、ぜひお礼をしてぇってな」
心当たりは、昨日助けた男性ふたりだった。そういえば、彼ら自身もあまり堅気ではない雰囲気だったが……まさか。
「お嬢さん、訳アリなんだろ。俺たちはやられたことは何倍にもして返す――たとえばそれが恩義ならなおさらだ。悪いようにはしねぇ。困ってんなら、ついて来な」
今の私は、非常に困った顔をしていたことだろう。実際、困っている。
まずい、この流れだと、断れない。私は他人の親切を断るのが、なにより苦手なのだ。
「お嬢さん、名前は?」
「です」
「そうか。俺はプロシュート」
結局。
優柔不断な私は、のこのことついていってしまったのだった。