イタリアに到着して、康一くんとネアポリス空港で別れてすぐ、私はタクシーにも乗らず裏路地を探し、適当な場所でパスポートと身分証明書になるものすべてを、焼き捨てた。南イタリアの街並みは裏路地が多く、入り組んで雑多で、私は容易にそれを行うことができた。
灰を、近くにあったポリバケツに捨てる。
……これから、どうしようか。
南イタリアなら、日雇いをしつつ浮浪者をしていれば生きていくのは簡単だろう。それでいいか。そうしよう。まだ財布にお金は余っていたが、今のうちにと雨風のしのげそうな場所を探しておく。
ちょうどいい廃墟か、屋根でもないだろうか……そう思いながら、どんどんと細い道へ大通りから離れた場所へと入っていくと、突然、言い争う声が聞こえた。しばらくして、戦闘音。呻き。
(ああ、まずい)
なにがまずいかというと、私が、お人好しだという話だ。気がつけば、私は駆け出していた。
「なに、してるんですか!」
私が叫ぶと、いくつもの目がこちらを向いた。地面には、男性がふたり、ぐったりとしていて、それを囲むように数人のガラの悪い男たちが居る。殺気はなかった。彼らは殺すというより、この足元の男たちを、拉致したい、そんなふうに見えた。
「――い、『いきもの失格』ッ!」
咄嗟に自らのスタンドを呼び出し、そして――私は、男性たちを助けた。襲い掛かってきたガラの悪い男たちを返り討ちにし、彼らが逃げ出したので、重症の男性らを――できるだけ目立ちたくはなかったので、申し訳ないが通報は控えて、誰かに発見してもらいやすい大通りに置いて、立ち去った。
襲われていた男性らの意識はあったが、かなり痛めつけられたらしくひと言も口をきかなかったのは、私にとって幸運だったといえよう。私も始終沈黙を貫き、この件を終わらせた。
彼らから離れて人ごみに紛れてゆくとき、金髪碧眼のひっつめ髪をした男性にすれ違わなければ。
あるいは、それだけで終わっていたはずなのだ。