幼いころから、私は、人にはない不可思議な力があったもので、「怪物さん」と呼ばれていた。悪口というより都市伝説じみたその蔑称は、あるとき引っ越し先――杜王町というのだけれど――で事件に巻き込まれ、それを乗り越えて仲間を得たことで、かけがえのない愛称へと変わった。
「で、なんできみまで、イタリアへ行くんだい」
康一くんに「イタリア語の読み書き、会話ができる」と書き込み、さらに私にも同じ内容を書き込んだあと、そのスタンド「ヘブンズ・ドアー」の持ち主、露伴先生は、納得がいかないといったようすで疑問を呈した。
「私も、海外旅行をしてみたくて」
「南イタリアは治安が悪いぞ」
「心配しなくても、すぐに別行動で北に行きます」
嘘だった。実を言うと、私の目的はその南イタリアにあったし、もっと言うならば、もう日本に帰ってくるつもりもなかった。行き先をイタリアにしたのは、単に、その土地には私を知る者がひとりもいないことと、友人の康一くんが、海外へ行くというのでついでについていく、観光、不審がられない、そんなところだった。
イタリアまでは一緒に行き、現地からは、康一くんは用事のため、私は観光のため、別行動。という建前で。
私は、そのまま、イタリアの地で行方をくらます予定である。
世捨て人になる。
――、早く帰ってきてくれよ。
露伴先生が、別れ際に告げた科白がやけに耳に残る。含みのある物言いは私がしようとしていることを、知っているようでもあったし、知らないようでもあった。露伴先生が私を本にしたのはまったく一瞬だったが、もしかしたら、読まれただろうか。そうだとしても、止めてこないのなら、良い。
「行こう。康一くん」
私は、私を捨てにイタリアへ行く。