プロシュートさんが獣みたいな声を上げている。濁った悲鳴、というより、雄叫び。このホテルの壁は薄いから、犯罪と勘違いされないか心配だ。一応、大丈夫ですか、と訊いてみる。もう無理、と言われたことはないけれど、私から見れば、すぐにでもやめてほしくなるような有様だ。

「も、もっとっ、っ、愛してる、愛してるッ」

全裸で四つん這いのプロシュートさんは腰をがくがくさせている。それだけでもみじめなのに、プロシュートさんの白い尻には私の腕が突き刺さっているのだ。五本指から入れて、手首まですっぽりと。肛門の皺は伸びきり、私の手首をぴったり囲んでいる。痛そうなほど勃起したペニスの根元には、射精防止に輪ゴムが無造作に巻かれ、そのせいで紫に鬱血していた。

「もっと、って……これ以上ひどくしたら、壊れますよ」
「壊れていいっ、ッ!こ、壊してくれッ、俺を壊してくれッ!!」

必死の形相でそう懇願するプロシュートさんが、パッショーネ暗殺チームに所属するギャングだと誰が思うだろう。お望み通り、私は、彼の腸内に入れている手を握り拳にして、勢いよく引き抜いてやった。物凄い音がして、プロシュートさんは絶叫しながらシーツの上で激しく悶える。それでも血が出ないのは、彼が日頃からここを拡張しているという成果だろうか。彼は私と会えない日は必ず、携帯のカメラ機能で、肛門を拡張してオナニーをする自らの写真を撮り、メールしてくるのだ。
プロシュートさんが私に対する場合のみひどく自己破壊的であり、自虐的行為に大きな快楽を得ているのは、疑いようのない事実だった。

「そろそろイッちゃいましょうね、プロシュートさん」

もう眠かったので、プロシュートさんに覆いかぶさり、片手で彼の乳首をいじりつつ、もう一度、大きく開ききってしまっている肛門に手を入れる。プロシュートさんは泣き出してしまった。しゃくりあげるように泣きながら、気持ちいい、気持ちいいと叫んでいる。気持ちが通じ合っていなくともSMプレイは成り立つのだろうか。被虐者による一方的な行為の渇望でも、虐待と定義される気がする。

「プロシュートさん、もう、お尻がばがばですね。普通のセックスじゃイけないうえに、日常生活だって支障がでるんじゃないですか」

答えられないかわりに、プロシュートさんは大きく鳴いた。それが答えだった。つまり、目の前の男は、私に縛り付けられ私なしではいられない体になることが、なにより気持ちいいのだ。乳首をぎゅうとつねる。乳首の先に、以前私がつけさせられた金色のピアスが揺れている。プロシュートさんは昼間、服を着ているときも、前を大きくはだけさせて、いつ、その所有印が見えてしまうのかとどきどきしているのだ。私はそれを気持ち悪いと思うし、罪深いと思う。
理解できない。
プロシュートさん、予言しますよ。いつか貴方は貴方自身の精神すらも壊せと言いますし、もしかしたら手足の何本か切断してくれと迫るでしょうね。貴方は自己破壊的だ。それが快楽に直結しているのだ。それで、私に所有された気になっている。でも、いつか人間は、まあ、生き物ですから、完全に壊れてしまいますよ。そのとき、私は殺人犯になってしまうんでしょうか。貴方は歪んでいます。

「でもまあ、おかしいのは私ですよね」

セックスが嫌いなんです。嫌いというより、もう、拒絶しているのです。私の生にそれは不要なものです。だとするなら、確かに、愛を確かめる方法というのは、こういったかたちにしかならないのかもしれませんね。
プロシュートさん。なんてかわいそうなひと。私を受け入れたばかりに、私を愛そうとしたばかりに歪んでしまった。でも、いいじゃないですか。たった死ぬ程度です。そのとき、私は、まあ、一緒には死んであげませんけれど、たまに貴方のことを思い出します。死んだ季節が冬ならばストーブの香りと刺す空気に貴方の面影を見るでしょう。あるいは貴方の好きな食べ物を見るたびに、貴方を懐かしむでしょう。それって、とても素敵なことですね。

「――愛してる、ッ……!」

ええ。私も。
だから死ね。