はじめに、私はその人を女性だと思ったものだ。あまりにも綺麗で、整った顔をもっていたから。雰囲気も、どことなく気品に溢れていた。けれどもよくよく見てみると、その人は男性のたくましい体躯をしていて、男性ものの香水をつけ、タールが大量に含まれた煙草を吸う。佇まいも粗暴で、口汚く、まともな職についていない。
(彼はその顔立ち以外、実に最悪だ)
南イタリア特有の、悪い男。私は男が嫌いだ。悪い人間も嫌いだ。美しいものと、清いものと、女性が好きだった。だからこそ、残念でならなかった。彼がもし、女性であったなら!私の最高の伴侶となりえたかもしれないのに。何度素敵な女性と付き合いを重ねても、あの男、プロシュートの美しい顔が離れないのだ。
考え、悩んだ末に、私はそのとき付き合っていた女性の首を切断した。顔もまずまず好みだったが、とくに、体が美しい女だったからだ。尻から胸の曲線がなだらかで、白磁の肌も美しかった。そして、その肌の色は、プロシュートと合わせても違和感はない。私はその体をクイーンサイズのベッドに横たえて、美しく着飾らせた。気のすむまでそれをやると、それから、通帳の貯金額を眺めて、何人くらい雇えるかな、と思いを巡らせた。私の人より秀でた能力では、プロシュートを打ち倒すに及ばないので、誰かにやってもらう必要があった。
結論から言うと、私は「うまくやれた」。雇った暗殺者に運ばれてきたプロシュートの首を落とし、私は、無事、女性の体に彼の頭を取り付けることに成功したのだ。胴体と頭は、糸で縫い合わせてある。それがすこし痛々しいので、彼が元々持っていたスカーフで隠した。非常に美しかった。その甘い金髪に似合う白いドレスを着て、力なく横たわるさまは、ミレーの描いたオフィ―リアのようだった。私は思わず、プロシュートの唇にキスをした。
長いまつげが震えた。プロシュートは目を開けると、私を濡れた瞳で見上げる。
「」
「喋るんじゃねぇ舌抜くぞ」
舌は抜きたくなかった。その舌も、彼女(と、もう表現すべきだろう)の顔立ちを表す美しさの一部分だったから。けれどもこの生首は、いかんせん生きているもので、ものを言う。低くて、気色の悪い、男性の声で話す。服も装飾も、香水も体も完璧なのに、この点だけ、どうにもならない。プロシュートは時折こうして私の名前を呼んでは、いとおしげに頬ずりをしようとする。けれども頭だけしか動かせないのだから、いつもそれができずに、悲しそうな顔をする。ああ、私の恋人。美しい顔をそんなに悲しげにしないで。私も悲しくなってしまうわ。
決して人を殺せない。その私の能力で首だけになっても生きているプロシュートは、首だけを失った、「生きた」女の体をつけられて、私の完璧な恋人となり、そこに在る。頭部分ができる逃避はもはや老衰による死くらいだが、首だけになっているにしても、自分くらい老いさせることができそうなものを、プロシュートはそれをしない。それはとても、喜ばしいことだ。どうか、いつまでも美しいままでいておくれ。貴方のために化粧水もきちんと選んであげる。それでもやっぱり時の流れに逆らえなかったら、体は焼いてしまったもの。貴方の頭もそのとき、やっと焼いてあげましょう。いえ、私の大好きなミレーの絵画のように、川に沈めてあげようかしら。
――私の部屋には、今日も美しい女性が寝ている。